人工心肺操作者が知っておくべきヒューマンファクター

人工心肺操作者(Perfusionist)が人工心肺を操作するうえで把握しておくと役立つヒューマンファクターについて簡単にまとめました。

 

人工心肺操作者のメインの仕事は頭の中で行われている。

人工心肺操作者のメインの仕事は鉗子の操作や流量の調整ではありません。主な仕事は頭の中で行われています。観察、理解、予測です。様々なバイタルサインや術野モニター、血液の色、リザーバーレベルの観察。そして観察した情報から患者さんや人工心肺の状態の理解です。そしてこれから何をすべきかという予測です。その予測をもとに行動が行われます。行動(操作)自体は簡単です。今何が起きているのかをきちんと把握するのが人工心肺の主な仕事です。

 

人工心肺装置の前にいながらリザーバー(貯血槽)を空に

日本体外循環技術医学会の人工心肺ならびに補助循環に関するインシデント・アクシデントおよび安全に関するアンケート2010,2013,2015の結果では、人工心肺装置の前にいながらリザーバーを空にした件数が2008〜2009年の2年間で5件、2011〜2012年で16件、2013〜2014年で12件発生しています。この数字は多いと感じますか?少ないと感じますか?人工心肺を操作し始めた時からいちばん気を付けている事なのになぜこのような事が起こるのか私はとても疑問でした。

その答えを教えてくれたのが認知心理学でした。

 

視覚的注意の深さと広さのトレードオフ

注意には広さと深さの2側面があり、課題要件の大きい場合は注視点で深くみます。それにより認知に関与する範囲の有効視野が狭くなります。これを「注意の深さと広さの相互関係:トレードオフ(Tradeoff between Depth and Width of Processing)」といいます。人工心肺中は有効視野を広く保ち、環境の変化をいち早く察知することが重要です。

しかしながら、人工心肺中は色々なモニターを観察したり医師や看護師とのやり取りがあるためどうしてもリザーバーに注意を向け続けることは不可能です。そんな時に急激な脱血不良を起こした場合、リザーバーが空になってしまいます。リザーバー空にしない対策としてレベルセンサーを取り付けることはほとんどの施設で行われていますが、目を離した隙にレベルが低下してしまう事は人間の特性として避けることは不可能です。

 

同じものを見ていても理解や将来の予測は異なる

人は同じものを見ていても経験や知識によって、その状態の理解やこれから何が起きるかといった予測かわります。この差は若手とベテランとではすごい差になります。トラブルが起こった時に対応できるかは、状況の理解と予測がちゃんとできるで変わってきます。

 

安全対策の必要性

経験によって情報取得能力には差が出てきます。人工心肺中の眼球運動データの解析結果では若手はリザーバーレベルを高頻度で見ていました。そのため他の情報の変化を見落としてしまう可能性があったり検出までに時間がかかってしまいます。【Yasuko Tomizawa,Hirotaka Aoki,Satoshi Suzuki,Toru Matayoshi,Ryohei Yozu.(2012). Eye-tracking analysis of skilled performance in clinical extracorporeal circulation. J Artif Organs (2012) 15:146–157 .】

また人間のマルチタスクには限界があることが知られており同時にできることは4つが限界で、3つ以上で処理の正確さと問題解決速度が低下すると言われています。【原田悦子,篠原一光.(2011).現在の心理学4注意と安全.北大路書房.】

そして人工心肺中装置はヒューマンファクターを考慮されてないと指摘されています。そのデザインは過去に航空業界で存在していた間違いやすいデザインを連想させると言われでいます。2009年ですがそれから大きな変化があったか・・・。そしてこのようなデザインの悪さは緊急事態の時に表面化しやすいです。【Douglas Wiegmann et al.A Human Factors Analysis of Cardiopulmonary Bypass Machines., JECT. 2009;41:57–63】

そもそも人工心肺中の認知的負荷は高いと思われます。そしてトラブルが起きた時には人工心肺の機能を維持ししつつトラブル対処をしなければなりません。医師からは質問が飛んできたり、タイムプレッシャーの中で対処しなければなりません。どんなベテランでもエラーをしてしまう可能性があります。なのでシミュレーショントレーニングや間違いにく人工心肺のレイアウトを考慮する必要があります。

 

最後に(測定方法の正確さはおいといて・・・)

私が人工心肺操作中に自分自身に心拍数を計測したデータがあるのでお見せします。心拍数は認知的負荷(メンタルワークロード)の指標です。これは人工心肺開始時から終了後30分のデータです。(本来なら人工心肺開始の30分前から計測するべきでしょうが忘れてました。)開始時と離脱前から離脱後が高くなっています。そして平均は89です。普段が60ぐらいなので安定期でも認知的負荷がかかっていることが分かります。生理的指標は誤魔化せません。

安心安全な人工心肺にするには日頃からのトレーニングが欠かせません。頑張りましょう!!

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です